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I.はじめに
脳の死をもって人の死と認めるか否かに関して,多方面の人々により議論がたたかわされている。この問題を考える場合最も基本的なことは,脳の死(以下脳死とする)を科学的に立証する手段をもつことである。この立場から多くの医学者が脳死判定の問題と取り組み,これまで各国でそれぞれの脳死判定基準が作られてきた1,2)。我が国では厚生省科学研究費特別事業,脳死に関する研究班により,脳死と考えられる症例の全国調査が行なわれ3),その解析結果から同研究班により「脳死の判定指針及び判定基準」(以下,厚生省基準)が提出された4)。また最近,同班からこの基準の補足として「脳死判定基準の補遺」が提示されている5)。それによると,脳死とは“全脳髄の不可逆的機能喪失状態”であると定義されている。したがって,脳死と判定する場合,脳全体の機能が永久に失われたことを証明することが条件となる。その判定基準の詳細は省略するが,各国で若干の相違はあるが,厚生省基準を含め共通しているのは,深昏睡,自発呼吸の停止,すべての脳幹反射の消失などの,生命徴候および神経学的検査所見を中心にした臨床徴候である。脳死はみえない死といわれ,従来のいわゆる心臓死による死の判定に比べ一般にはわかりにくく,脳死を証明する何らかの客観的資料がのぞまれる。それには,脳波などの電気生理学的検査,CTなどの画像診断,および脳循環代謝検査などがある2,4-7)。厚生省基準では脳波の平坦化による大脳機能喪失の証明と,判定の前提条件としてCTなどの画像診断による原疾患の確認が盛り込まれている。
理論的には,脳全体の代謝が喪失していることを証明できれば,脳死を決定づけることが可能である。また,脳の血液循環が停止すれば,短時間で脳の機能が不可逆的に喪失し2,8),それは脳死を客観的に示す手段として重視され,スウェーデンなどの北欧諸国では,脳死を全脳梗塞(total brain infarct)とよんでいる2)。人脳の局所脳循環代謝量を定量的に示す優れた画像診断法にポジトロンCT(PET)があるが9),PETはごく限られた施設でのみ利用可能な手段で,PETを日常の脳死判定に利用することは現実的ではない。
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