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はじめに
—私は、あなたが今日の講演で“だめな説明”と言っていたやり方を、何十年もやってきました。患者さんにどう説明するか、納得してもらうにはなにが必要か、という教育は当時はありませんでした。説明のスタイルというものは、先輩のやり方を見よう見まねで学んで、研修期間が終わるあたりで身についてしまいます。ですから私は、今日の講演を、数十年前に聞きたかった—
これは、とある講習会で、筆者がベテラン医師から言われた言葉である。その告白に敬意と感謝を感じつつも、彼が診てきた患者さんに感じたであろう申し訳なさが入り混じり、私自身がすべきことを怠ってきた結果でもあることが後悔の念となって押し寄せ、胸に沈殿した。
その後の講習会などでも「患者さんからインフォームドコンセントをもらう際にどのように話をするか、という教育を受けた人はいますか」と問い掛けるが、手を挙げた人はいまだ誰もいない。「重篤な合併症は、飛行機事故より低い確率です」などと言われて、死亡や低酸素脳症による昏睡になった場合は、患者はもとより、家族は「話が違う、こんなはずではなかった」と思うだろうし、怒りの矛先は医療者に向かう。協力して患者の内なる敵と戦うはずの医師と患者が反目しあうのは互いに不幸であるし、患者や家族の不信感や怒りは医療者のQOLや人生も傷つけてしまう。
筆者に告白してくれた医師の時間を実際に巻き戻すことはできないが、始めるのに遅すぎることはない。
あの医師が、大学病院でスタッフドクターになったばかりに私と出会っていたらどうなっただろうか。インフォームドコンセントとはなにか、患者に納得してもらえる説明の方法とはなにか。そんなシーンを想定して、インフォームドコンセントについて少し話してみようと思う。
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