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はじめに
真菌感染症は細菌感染症と比較して日常臨床で遭遇する頻度が低い。その診断、治療の一連の流れを経験する機会が多くないため、「なんとなく真菌感染症」という漠然としたくくりで考えられていることをしばしば目にする。その背景には、培養検査の感度の低さ、血清診断の限界、薬剤感受性試験とその臨床効果の相関の不確からしさなど、細菌と比べても未だ解決すべき問題が多く、そもそも基礎疾患が重篤な患者に生じた日和見感染症の治療にあたる臨床医を不安に陥れる要素が多いこともあるだろう。
近年、PCR法や質量分析法(matrix assisted laser desorption/ionization, time of flight, mass spectrometry;MALDI-TOF MS)といった診断法の進歩により、正確な真菌の同定がなされるようになってきた。特にMALDI-TOF MSは平成30年度診療報酬改定で「質量分析装置加算(40点)」が新設されたため、今後更に臨床現場に導入する医療機関は増加するだろう。これまでは生化学的性状や診断キットでの菌種同定にとどまっていたものが、より詳細な菌種同定が可能になると思われる。また、そのような状況下でCandida aurisやCryptococcus gattiiなどの新興感染症もトピックスになっている。
一方、がん患者の診療に携わる臨床医にとって、想定すべき感染症の原因真菌のリストはそれほど多くない。真菌の固有名詞を想起し、感染臓器を推定、適切な検査を施行し、治療を開始する一連の流れを把握することがポイントである。
誌面の関係で、本稿ではがん患者の真菌感染症の全てを網羅することはできないが、がん患者の診療にあたる臨床医が理解しておきたい真菌感染症の全体像をはじめに提示する。そのうえで、いくつかの最新のトピックスに触れてみたい。詳細な治療法などは成書やガイドラインを参照することをお勧めする。IDSA(Infectious Diseases Society of America)や欧州からの各種ガイドラインが参照可能であり、そして日本からもガイドラインが刊行されている1〜4。本稿の目的は、読んでいただいた方に、真菌感染症への興味をもっていただくことである。
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