シネマ解題 映画は楽しい考える糧[44]
「砂の器」
浅井 篤
1
1熊本大学大学院生命科学研究部生命倫理学分野
pp.147
発行日 2011年2月15日
Published Date 2011/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414102110
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「悲劇」の原因をわれわれに問う名作
松本清張原作の社会派推理小説の映画化.原作を読んだ方および本作品をご覧になった方も少なくないでしょう.音楽,映像,役者の演技すべてがきわめて映画的で,140分間その世界にどっぷり浸かることができます.製作されたのは40年近くも前ですが,作品の魅力は一向に衰えていません.これまで紹介してきた作品同様,「映画力」を持った作品です.未見の方はぜひご鑑賞ください.非常に有名な大ヒット作ですから,今までさまざまな評論が書かれていることでしょう.本連載では,例によって生命・医療倫理の観点から私が感じ取ったことを述べますが,この後はもろに「ネタばれ」になりますのでご注意ください.
テーマは「宿命」.物語は悲劇.悲劇の原因はわれわれです.映画は宿命論的な雰囲気を漂わせ,三名の事件関係者たちはそれぞれ苦しみを味わいます.必死に犯人を追求した二人の刑事たちも彼ら三人の宿命ともいえる出会いと別離,そして悲劇を引き起こす再会に運命のいたずらを感じずにはいられなかったでしょう.涙なしには観られません.ただ私はあえて「これって本当に宿命なの?」と問うてみたいと思うのです.なぜなら悲劇の原因は神の筋書でもわれわれの罪でも人生の不条理でもなく,単なる無知で愚かな病気に対する偏見と許容できない差別なのですから.
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