特集 「診断エラー」を科学する!—セッティング別 陥りやすい疾患・状況
【セッティングⅡ】入院診療
❶院内発症静脈血栓塞栓症
中西 俊就
1
,
小坂 鎮太郎
1
1練馬光が丘病院 総合診療科
キーワード:
診断エラー
,
静脈血栓塞栓症
,
スイスチーズ・モデル
,
認知バイアス
Keyword:
診断エラー
,
静脈血栓塞栓症
,
スイスチーズ・モデル
,
認知バイアス
pp.571-574
発行日 2022年5月15日
Published Date 2022/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429203719
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Case
憩室出血で入院加療中に急性発症の呼吸困難を訴えた一例
患者:84歳、女性。入院前ADLは屋内自立、普通食でたまにむせこむ。BMI 28.2。
既往歴:慢性心不全、高血圧症
現病歴:憩室出血に対して保存的加療目的に入院中。年齢以外はリスクに乏しく、抗凝固薬や間欠的空気圧迫法などによる静脈血栓塞栓症の予防は行っていない。動くと苦しく、本人は離床を拒否して臥床傾向であった。
血便が消失したため、第3病日より低残渣食を再開した。第5病日、急性発症の呼吸困難と乾性咳嗽を認めた。体温37.8℃、脈拍数106回/分・整、血圧152/98mmHg、呼吸数24回/分、SpO2 92%(室内気)。身体所見は、入院時から認める左優位の下腿浮腫を認めるのみで、頸静脈怒張や心音など特に異常を認めず。胸部X線でも心拡大や浸潤影なし。担当医は、暫定診断として「誤嚥性肺炎」による軽度の心不全増悪の疑いとして、痰培養を提出して抗菌薬と利尿薬の投与を開始した。担当看護師より、痰の喀出もなく痰培養採取が困難と報告があったが、当直明けで疲れていた当直医は、違和感を感じず誤嚥性肺炎だと考えて痰培養採取も省略してよいと判断した。翌朝、血圧低下と酸素化低下の増悪を認め、造影CTを撮影したところ、左膝下静脈と肺動脈に血栓を認め、「急性肺血栓塞栓症」と診断した。
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