- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
Case(仮想)
患者:70歳、男性。都市部にあるAクリニックに長年かかっている。
既往歴・内服薬:Aクリニックでは「脂質異常症」に対するスタチン、「前立腺肥大症」に対するα遮断薬と抗コリン薬を処方されている。一方、「狭心症」のためPCI(経皮的冠動脈インターベンション)を複数回受けており、「オーバーラップ症候群」もあり、近隣のB総合病院の循環器内科・呼吸器内科にも通院している。また「うつ病」の既往があり、現在も同じ総合病院の精神科でベンゾジアゼピン系薬剤を処方されている。内服薬は、クリニックからの3種のほか、総合病院の循環器内科から5種、呼吸器内科から2種+吸入薬2種、精神科から3種処方されている。暗黙のうちではあるが、医学的に重症度の高い疾病の管理を総合病院で、それ以外の疾患の管理とマイナートラブルや生活環境に近い問題の相談はクリニックで、という役割分担をしていた。
現病歴:1年ほど前から、クリニックの予約日に来院しないことが頻繁となり、徐々に身なりにかまわないようになった。ふらつきを訴え、自転車や徒歩で転倒を繰り返した。症状が出ても本人は危機感が薄く、「今は治ったから大丈夫、大丈夫」という感じであった。医師の側も、主要な医学的疾患の管理を総合病院で行っていることもあり、原因追究の手が緩んでしまっていた。「薬剤性の起立性低血圧」が疑われたため、α遮断薬を中止し循環器内科に紹介状を書いたが、ついに外来受診への途中に意識消失して通行人が救急車を呼ぶ事態となった。
事ここに至って、多方面からの介入が行われることになった。それまで医師が把握していたのは、借家の長屋で1人暮らしだったこと、同居していた弟が3年前にC型肝硬変による肝細胞がんのため亡くなったこと、数年前から生活保護を受給していたことであった。しかし、相談のためクリニックを訪れた保護課の担当者によると、その長屋はネズミが這い回るほどのゴミ屋敷と化しており、生活保護のお金も家賃や光熱費でほぼ使い切ってしまい、食費が月5,000円しか確保できないとのことであった。また、担当になったばかりのケアマネジャーからは、掃除洗濯が全くできず、約束などもすぐ忘れてしまうので、「認知症」ではないかと相談があった。クリニックでは基本的な意思疎通がとれていたため、認知症のスクリーニングは未実施であった。
Copyright © 2022, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.