シネマ解題 映画は楽しい考える糧[101]
「愛を読むひと」
浅井 篤
1
1東北大学大学院医学系研究科社会医学講座医療倫理学分野
pp.1075
発行日 2015年11月15日
Published Date 2015/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429200400
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観る者の鑑賞時の問題意識で姿を変える傑作
この映画をどう紹介したらよいでしょうか.15歳の少年マイケルと30代女性ハンナのロマンス.二人の関係はハンナが68歳で亡くなるまで続きます.情熱と葛藤に満ち,大部分の時期は塀によって隔てられた関係でした.「ナチスの戦争犯罪を後の世代のドイツ人が裁く物語」とも言えるでしょう.ハンナはかつて女性収容所の看守のひとりをしていました.終戦間近,彼らは囚人らと共に敗走し,囚人たちが休んでいた教会が爆撃を受け炎上しました.ハンナたちは教会の扉の鍵を開けず,数百人の女性が焼死しました.
また「自分の能力欠如を隠して必死に生きる女性の人生の物語」と表現することもできるかもしれません.ハンナは魅力的で誇り高い独立した女性でした.自分のある問題を隠すために,裁判の証言で,自分に不利になる嘘をついてしまいます.生育環境と教育の在り方のインパクトの大きさを考えさせてくれました.最後に,もちろんここで言及した観点だけではありませんが,過去の犯罪が明らかになり,重罪人となったハンナに対するマイケルの複雑な思いと,彼なりの愛情表現の物語かもしれません.犯罪者への理解,改悛,そして贖罪の物語と見ることもできるでしょう.観る者の観賞時の問題意識で姿を変え,観る度に理解が深まりますが,できればそのまま丸ごと受け入れたい傑作です.
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