シネマ解題 映画は楽しい考える糧[81]
「愛についてのキンゼイ・レポート」
浅井 篤
1
1熊本大学大学院生命科学研究部生命倫理学分野
pp.282
発行日 2014年3月15日
Published Date 2014/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414103157
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インタビュー調査の極意を学ぼう
今から60年以上前,史上初めて人々の性行動について社会研究を行い,有名な『キンゼイ・レポート』を出版した生物学者アルフレッド・キンゼイとその妻クララ・マクミレンの生涯を描いた作品.厳格で保守的な父親に育てられた幼少期,思春期における父との確執,昆虫学を研究した学生時代,クララとの出会いと結婚,息子との確執,大学での性教育,『キンゼイ・レポート』男性版および女性版として発表されることになる1万8000人にも上る米国人を対象にしたインタビュー調査の実際,資金調達の苦労,そして夫婦の愛が描かれています.いろいろな見方ができますが,私は社会を科学で変革しようとした研究者とその妻の人生に感銘を受けました.
今でこそ性の話題はかなりオープンに語ることができ,性教育も小学生の頃から受けるようになりましたが,彼らが生きた時代はセックスのことなど人前で話すようなことではありませんでした.同性愛や自慰の話題など以ての外.多くの人々は性に関する正しい知識がなく,迷信に振り回されていました.自分だけが異常ではないかと悩んでいた若者も少なくなかったようです.大学で初めて試みられた性教育も,その実は道徳教育と変わりません.性病予防の一番の方法は禁欲で,黒人は性欲が強く抑制できない,だから梅毒になりやすいなど,差別と偏見に満ちたものでした.そんな中,人間の性行動を科学的手法を用いて調査して,先入観に左右されない事実を明らかにしようとしたのがキンゼイとその仲間たちでした.
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