シネマ解題 映画は楽しい考える糧[94]
「スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする」
浅井 篤
1
1東北大学大学院医学系研究科社会医学講座医療倫理学分野
pp.404
発行日 2015年4月15日
Published Date 2015/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429200201
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記憶,現実,自己同一性に関する物語
『ザ・フライ』,『クラッシュ』,『イースタン・プロミス』などで有名なクローネンバーグ監督の作品.その名前だけで無条件に作品を観るというファンがいる,数少ない監督のひとりです.作品は現代ロンドンが舞台.統合失調症のために治療を受けていた中年男性が精神病院から退院し,社会復帰のための中間施設に移ってきました.彼はいつも何かを手帳に書き込み,自閉的で独語を続けています.映画は現在の彼,精神病院時代の彼,そして彼の記憶する過去を映し出していきます.
主人公は今,間違いなく現在のロンドンにいます.いつも煙草を吸い,砂糖をたくさん入れてコーヒーを飲みます.精神病院時代の描写もおそらく本当のことなのでしょう.仲間の患者が血だらけになって暴れていました.主人公は鋭いガラスの破片を手にしますが,自傷他害行為は行いませんでした.他方,彼の少年時代の記憶は鮮明なのですが,鑑賞者は最後に彼の記憶が実際の過去と異なることに気付かされます.ちなみに記憶の中では,母親が幼い彼を「スパイダー」と呼んでいました.
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