連載 原著・過去の論文から学ぶ・8
大脳皮質基底核変性症をめぐる疾患概念の変遷
若林 孝一
1
1弘前大学大学院医学研究科脳神経病理学講座
pp.1279-1281
発行日 2024年11月1日
Published Date 2024/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416202771
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大脳皮質基底核変性症との出会い
筆者は1985年に医学部を卒業後,すぐに新潟大学脳研究所の故・生田房弘教授(当時)の門をたたき,神経病理学の研鑽を開始した。それから6年たって,認知症とパーキンソニズムを呈した70代,女性の1剖検例を経験した。この症例では基底核や脳幹の病変(神経細胞脱落の分布と神経原線維変化の出現)は進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)と区別できない。しかし,前頭葉と側頭葉には高度の萎縮を認め,多数の風船様細胞(ballooned neuronまたはneuronal achromasia)が出現していた。後述するように当時はまだタウオパチーの概念はなく,前頭側頭葉の葉性萎縮はPick病として分類されていた。
神経病理学教室では毎週木曜日の午前9時から組織検討会が始まる。私はPSPとPick病の合併例として発表した。この検討会のメンバーからその後6名の神経病理の教授が誕生することになるのだが,私の説明がほぼ認められようとしたとき,高橋均助教授(当時)が発言された。「このような稀な疾患が合併するとは考えられない。これは全体が1つの疾患に違いない。文献を探せ」と。そこから文献検索が始まった。
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