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はじめに
皮質基底核変性症(corticobasal degeneration;CBD)は,大脳皮質と基底核以下の神経核に病変を持つ神経変性疾患であり,進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy;PSP)と同様にパーキンソン関連疾患に分類される。CBDは,1967年Rebeizら27)が3剖検例を検討し,“corticodentatonigral degeneration with neuronal achromasia”という新しい神経変性疾患として報告したのが最初である。その後,1989年Gibbら7)が自験例を加えて再検討し,CBDと呼ぶことを提唱した。現在CBDの臨床診断基準で統一的なものはないが,Boeveらの診断基準3)(表1)によれば,①皮質症状として局所性あるいは非対称性の観念運動失行,他人の手徴候,皮質性感覚障害,視覚性・感覚性半側空間無視,構成失行,局所性または非対称性ミオクローヌス,発話失行または非流暢性失語のうち1つ以上を満たすこと,②錐体外路障害として局所性または非対称性の筋固縮でL-dopa効果のないもの,局所性または非対称性の肢ジストニアが挙げられ,1つ以上を満たす必要がある。また,支持項目の1つであるCTやMRIの形態画像所見では,典型的には前頭頭頂葉に強い,局所的または左右差のある大脳皮質の萎縮が挙げられている。
剖検脳の肉眼的特徴は,前頭・頭頂葉領域の限局性萎縮,特に中心前回の萎縮と黒質の脱色素である。また,その萎縮はたいてい非対称性である。組織学的には,多数のballooned neuronとastrocytic plaqueを伴ったthread様の病理が大脳皮質,白質,基底核,間脳,脳幹部に広範に出現し,同部位の神経細胞脱落とグリオーシスの出現を特徴とする5)。
筆者らは本誌にPSPの精神症状に関しての総説36)を記したが,CBDも,PSPと同様に,認知症が前頭葉を中心に広範に分布するグリアタングルとの関係から,グリアタングル型認知症dementia with glial tanglesとして位置づけている17)。CBDでは,PSPより皮質下病変の広がりは少ないものの,大脳皮質の変性はより高度,広範で,これが合併する認知機能障害・精神症状に強く影響を与えている可能性がある。CBDの神経精神医学的特徴に関する報告は少ないが,近年では,前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)の基礎疾患(病理学的背景)の1つと考えられ,異常行動・精神症状・失語・認知症が初発症状であることが多く,パーキンソニズム,肢節運動失行などの運動症状よりむしろ認知症がCBDの主要症状であること33,34)が指摘されている。また,CBD患者は人口10万人あたり4.9~7.3という報告があり32),まれな疾患であると考えられている。しかし,最近筆者らが行った調査35)において4,630人の認知症診断外来利用者のうち8人(0.17%)がCBDと臨床診断され,ある一定数存在することが示された。つまり,精神科領域ではまれな疾患ではあるが,鑑別診断として考慮する必要のある器質性精神疾患の1つであると考えられる。本稿ではCBDの認知障害,精神症状に焦点を当てて概説する。
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