書評
「手に映る脳,脳を宿す手—手の脳科学16章」—Göran Lundborg【原著】 砂川 融【監訳】
平田 仁
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1名古屋大学大学院医学系研究科手の外科
pp.265
発行日 2021年3月1日
Published Date 2021/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416201750
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本書の主役である「手」のことを深く理解する人はどれほどいるだろうか? 手はとても身近な器官であり,ほぼすべての所作に関わり,営みのあらゆる場面を支え,そして,「第2の目」と称されるように貴重な情報収集源ともなっている。人々は「手の価値」を問われれば異口同音に「大切」と即答するだろうが,その際羅列される根拠の大半が「手」からすれば実に過小で心外なものであろう。この状況は「空気」,「水」,「伴侶」,など,あまりにも身近であるがゆえにことさらに考えることを忘れがちなものに共通する。「脳」は異なるもの,稀なものへの分析が大好きだが,当たり前のものへの敬意は総じて足りない。「あって当然」であり,「居ることが当たり前」なものは失って始めて真の価値に気づかれ,深い洞察の対象となるのである。
本書の原題は『The Hand and the Brain: From Lucy's Thumb to the Thought-Controlled Robotic Hand』とずいぶん潤いを欠くものである。これに対する邦文タイトル『手に映る脳,脳を宿す手』はとても神秘的で,読者の好奇心をくすぐるものとなっている。タイトルは本の顔であり究極の要約であるが,原書と訳書でこれほどにタイトルのテイストが異なる背景には砂川融先生をはじめとする本書の翻訳に関わったすべての人の読者へのある種の込められた思いがあるのだろう。
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