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このたびH. I. Kaplan,B. J. Sadock編著による“Pocket Handbook of Clinical Psychiatry第2版,1996年”が邦訳・出版された。本書の親本である“Comprehensive Textbook of Psychiatry”は1967年に初版刊行以来,精神医学の発展を忠実に取り入れながら,30年間に6回の改訂,増補を重ね,今や3,000頁を超える大著に成長している。その間一貫して,アメリカにおける現代精神医学の最も標準的な教科書として評価され,国際的にも学問的,臨床的な意義を果たし続けている。一方,この教科書には初版以来Synopsis,つまり要約版が刊行されており,我が国でもその第7版が1996年に順天堂大学精神医学教室の諸氏によって『カプラン臨床精神医学テキスト』として翻訳出版されている。このたび,東京医科歯科大学神経精神医学教室の融道男教授らの監訳によって刊行された本書,『カプラン臨床精神医学ハンドブック』は,それをさらに要約して携帯にも便利なようにした原著,“Pocket Handbook of Clinical Psychiatry,1996年”を邦訳したものである。原著者が序文で述べているように,本書は親本のいわば「エキス」のようなものである。「DSM-IV診断基準による診療の手引」という副題にも示されているとおり,内容はDSM-IVの診断分類に沿って構成されている。我が国の精神科臨床にDSMが浸透している現在,第一線で活動する精神科医,レジデントが白衣のポケットに入れて常用するのに大変便利な一書であるのみならず,医学生,心療内科医,臨床心理士,ケースワーカーなどにとっても,精神医学の基礎を正しく系統的に把握するのに大変使いやすい手引き書である。
DSM-Ⅳで挙げられている各障害について,概説(定義,歴史),症候論,診断,病型,疫学,原因論,検査,鑑別診断,経過と予後,治療などが,要領よくまとめられている。またそこでは生物学的視点から,精神力動論や社会的なかかわりまで,公平にとらえられている。文章は簡潔,明快な箇条書きが多く,また約100に及ぶ表が用いられていて,読者の整理を助けてくれる。本書を読む過程でさらに深い知識を求める場合のために,各章ごとに親本の相当箇所が明示されているばかりでなく,本訳書には上記Synopsisの邦訳書,つまり『カプラン臨床精神医学テキスト』で相当する部分も加えられており,我が国の読者にとって親切な配慮がなされている。
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