書評
—著:新井 信隆—神経病理インデックス 第2版
小野寺 理
1,2
1新潟大脳研究所
2新潟大脳神経内科学
pp.212
発行日 2024年1月10日
Published Date 2024/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436204898
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
見えないものが「視える」ようになる,神経病理学の羅針盤
ある図形から2つの物を見ることができるのに,同時には2つの物に見えない図形を,多義図形といいます.最も有名な多義図形に『妻と義母』があります.向こうを向いている若い妻にも,年老いた義母の横顔にも見える図です.皆さんも見たことがあるかと思います.不思議なことに,一度老婦人に見えると,妻が見えなくなります.また,一度多義図形であることに気付くと,気付かなかった時期の自分には戻れません.われわれの視覚は,意識に左右されます.見えるようにならないと,永遠に見えません.また一度見えると,次からは,必ず,そう見えるようになります.この現象は,われわれの認知や知覚における,固定観念や予測の働きに関連しているといわれています.
われわれは,ありのままを認知しているのではなく,過去の経験や学習から得た情報を基に,解釈し,意味を与え,認知します.『妻と義母』で起こっていることは,このような認知のプロセスによって生じるものと考えられています.この現象が面白いのは,一度認識した解釈が強くなると,逆の解釈をすることが大変難しくなることです.一度見えてしまうと,もう見えなかった自分には戻れなくなります.
Copyright © 2024, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.