連載 いのちの詩を読む・12〔最終回〕
いのちの湧き水(水分について/新井豊美)
新井 豊美
pp.942
発行日 1988年12月25日
Published Date 1988/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207516
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戦争中、瀬戸内海沿岸の赤穂と云うまちに疎開していた。忠臣蔵で有名なわりにあまり知られていないが、赤穂は瀬戸内海国立公園の中にあってたくさんの島々や緑多い岬を持つ、風光明媚な土地なのである。母の生家がそこで代々の製塩業を営んでいて、家は伯父の代になっていた。
この海辺のまちでの日々は、私の幼い感受性にさまざまな影響を与えたが、とくに疎開っ子で友だちの少なかった私にとって、豊かな自然から与えられた恩恵は計り知れないものがあった。海の光り、風の香り、木々と花々と魚たちとの、あの豊かな言葉なき対話の体験を今思い出すと、詩とは私にとってあの至福な対話を今一度甦らせ追体験するための、かなわぬ祈りの言葉のように思えてくる。
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