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社会をめぐる状況
国民病といわれる範疇に,認知症とうつ病が新たに加わり,2011年以来五大国民病と呼ばれる総称も定着してきた。政府も認知症対策を正面から講じつつある。国民の認知症への憂慮はどの程度であるのか,何を期待しているのかが施策に反映されるようになってきている。かたやわれわれ自身も,もはやメジャーとなった認知症という国民病に対してどのように対峙し,患者,家族の救いとなれるのかを医療の立場から追い求めなければならない。認知症の中でも大多数を占めるアルツハイマー病の新薬開発は喫緊の課題として切望されていることは言を俟たない。なぜ新薬が登場しないのか。製薬企業の開発現状だけでなく大学や研究所での取組み事情を厳しく正視するところから始めたい。
この領域での世界のリーダーは,やはり米国や英国である。それが証拠に,テレビ,新聞での海外報道は実に微に入り細に入り,頻繁である。ただ,その米国をもってしても新薬開発は失敗の連続であり,治験中止により統廃合された製薬企業も少なくない。それでも世界中が挑戦を続ける理由を考えたい。まずは,患者人口の絶対数すなわち市場規模が半端ではなく大きいこと,日本や米国のような先進国だけではなく,今後開発国を含めて高齢化が進むにつれ,さらなる患者数の増加が世界規模で確実に予測されていることが挙げられる。また,他の疾患とは異なり,介護のために離職することで経済基盤と社会から隔離されることも少なくない。長年連れ添ったパートナーを,あるいは時として親をも殺す状況に追い込まれる病気が認知症であり,先進国の自国民のため,開発国の国民のため,さらには製薬企業が利潤追求以上の社会貢献という視点も開発を進める動機となっているはずである。
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