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あくび症候は,40年ほど前の『日本医事新報』に「日陰者の神経症状」1)というタイトルで書かれたこともあるように,本邦では依然ほとんど注目されていない自律神経症候です。しかし,1900年前後の欧米神経学では,明らかに陽が当たっていたのです。例えば,デジュリン(Joseph Jules Dejerine;1849-1917)は『神経症候学』2)の中で次のように書いています。「あくびは混合性の呼吸性攣縮(spasm)である。持続性にあるいは発作性に生ずるが症候として起こることは大変稀である。持続性の場合は睡眠時には止まり,目が覚めると起こり,数カ月〜数年間も持続する。規則的で,咳発作で中断することがある。あくびに際して両顎は大きく離れる。しかし呼吸の深さは正常である。発作性の場合は15〜30分間あるいはそれ以上の間,群性に途切れることなく反復する。発作が止むとまた始まる。痙攣を伴ってヒステリー発作の部分症状として出現することがある」。ガワーズ(William Richard Gowers;1845-1915)の教科書には,半身麻痺の上下肢があくびの際には動くという記載があります3)。シャルコー(Jean-Martin Charcot;1825-1893)は火曜講義の中でヒステリー性あくびについて詳しく述べ4),それは,なんと1911年(明治44年)に佐藤恒丸によって日本語にも翻訳されています5)。
『Nouvelle Iconographie de la Salpêtrière』にはあくびに関する,2つの論文が収載されています6,7)。1つは,ジル ド ラ トゥレット(Georges Gilles de la Tourette;1857-1904)によるヒステリー性のあくび症例で,本号表紙掲載の23歳女性例です。もう1つは,フェレ(Charles Samson Féré;1852-1907)によるてんかん性あくびの記載です。
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