Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
てんかんの罹患率は,ヒトで約1%(日本全体で約100万人),イヌで3~5%と非常に高く,特にヒトでは,その3分の1の患者で薬剤による発作制御が困難となる“難治てんかん”に進行する。てんかんは,病因により,特発性,家族性,あるいは症候性に分類される。特発性とは,不確かな,または未知の原因により生じることを,家族性とは,既知の常染色体優性遺伝子の変異により生じるものである。近年の特発性てんかんの原因遺伝子の同定により,家族性の原因遺伝子と一致するものが知られている。一方で症候性てんかんとは,既知の脳の異常(先天性脳不全・脳腫瘍・外傷・脳梗塞など)の結果起こるものである。特発性てんかんが比較的軽症で薬物治療効果が期待できるのに対して,症候性てんかんは難治化率が高く,特に,症候性てんかんに分類される側頭葉てんかんを主とする複雑部分発作や,強直間代発作は,難治化に進む割合が50%と非常に高いことが知られている。このようにてんかんは,さまざまな病因により発症する慢性脳疾患であるが,その発作発現はすべて,大脳神経細胞の過剰な放電が神経回路上を同期性に伝播する反復性の発作を主徴とするものであり,その発作の始まる脳領域のことを発作焦点(foci)と呼ぶ。薬剤耐性を示す難治てんかんの治療として,この発作焦点の外科的切除が有効であるが,多焦点性のてんかんや脳深部にある焦点の外科的切除は困難であり,さらに有効な治療方法の開発が期待されてきた。一方で近年,薬剤の有効性の向上および,他の脳領域あるいは全身性の副作用の軽減を目指した抗てんかん薬の発作焦点への直接注入が,実験レベルではあるが試みられている。その1つに,ボツリヌス毒素の発作焦点への直接注入が注目を集めている。
ボツリヌス毒素は,グラム陽性偏性嫌気性桿菌であるClostridium botulinumから産生され,抗原性の差によりA~G型の7種に分類され,その比活性は自然界で最強である(青酸カリの30万倍とされる)。その作用は,神経筋接合部のシナプス終末において特異的にアセチルコリンの放出を阻害し,その結果,筋肉の麻痺を引き起こすことがわかっている。7種の毒素の中で,特にA型毒素の臨床応用が進み,1977年に米国で初めて斜視治療に応用されて以来,国内でも眼瞼痙攣,片側顔面痙攣,痙性斜頸の治療に承認・使用されている1,2)。その作用機序は,毒素が神経筋接合部に作用して不随意運動を起こしている筋肉の緊張を緩和することによる。また,その作用の持続性が非常に長いことも治療効果の高いことの大きな理由である。
これまで,ボツリヌス毒素による中枢神経系疾患への治療応用は試みられていない。しかしながら最近になって,シナプス終末における神経伝達物質の放出の阻害作用と,その阻害作用の持続性の高いことに着目した,難治てんかん治療への有効性の検討が始まっている。本稿では,ボツリヌス毒素の中枢神経系への影響について解説し,いまだ実験レベルではあるが,難治てんかん治療への有効性を実証している例を紹介する。
Abstract
Epilepsy characterized by recurrent behavioral seizures,affects approximately 1% of the population worldwide. More than one-third of epilepsy patients are estimated to have pharmacoresistant epilepsy. One-half of patients with refractory epilepsy are characterized as having mesial TLE with foci in the amygdaloid complex,hippocampus,and surrounding cortex. In 50-70% of such cases,surgical removal of the temporal lobes can successfully treat the disease,however,it is not always applicable because of the presence of secondary foci and localization of primary foci in the deep brain. Arecent therapeutic approach focuses on the delivery of botulinum neurotoxins directly into the seizure focus in the brain and this approach is currently being investigated using animal models. Several reports have demonstrated that botulinum neurotoxin E injected into the hippocampus of rat with KA-induced epileptic rats prevents neuronal loss in the CA1-subfield of the hippocampus and the dentate granule cell dispersions,and glutamate release from the hippocampal synaptosomes. Furthermore,injection following the acquirement of KA-induced spontaneous recurrent seizures reduces chronic seizures. We provide a plausible mechanism of action of botulinum neurotoxin action in the CNS and discuss the possibility of its therapeutic application to human epilepsy.
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.