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新しい事実の発見は新しい解析方法によって見出され,さらに,見出された事実・所見から新しい概念や方法論が生まれてくることによって科学は着実に進歩してきたと考えられる。DNAの二重らせん構造の発見には,X線解析の手法が大いに貢献したし,DNAシークエンサーやPCR(polymerase chain reaction)法の開発によって,遺伝子研究は大いに発展した。神経系は,神経細胞の突起の接触による連鎖で構成される神経回路の上で機能しているわけであるから,この神経回路の構成や働きを知ろうとする試みが20世紀から今日まで営々と行われている。脳神経系の知識や理解も,形態学的には組織固定法,染色法,薄切法の発明改良が,生理学的には神経細胞の電気現象を調べることを可能にしたガラス管微小電極法,脳波,筋電図などが知識の増大に大きく貢献している。脳の働きを調べる方法として,近年,脳磁図,PET,MRIなどの非侵襲的画像解析法が改良され,部位特定,機能変化などを捉えるものとして臨床および研究の場で盛んに利用されている。しかしながら,ニューロンという単位,大きさ,種類の多様性を考えると神経回路の詳細を解析するにはまだ解像度が不足していると思われる。したがって,ニューロンを単位とする解析には,当分の間は,これまで用いられてきた時間はかかるが確実な方法での所見を積み上げていかねばならない。
本特集では,遺伝子工学を用いた単一ニューロン形態の解析法,順行性・逆行性に多段ニューロン連鎖を解析する方法,単離脳を用いてin vitro環境で脳内活動を解析する方法,選択的に回路の一部を除去する方法など,これまでの回路解析法に比し,ダイナミックな所見の得られる方法論をご紹介いただいた。今回取り上げられなかったものの中には,コンディショナルノックアウト手法,同時多数細胞の記録法など,神経回路網の構造,働きを調べるための極めて有用な方法論もあり,今後の回路解析法のさらなる発展に期待したい。
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