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あとがき
石塚 典生
pp.878
発行日 2008年7月1日
Published Date 2008/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416100322
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19世紀末にBrown and Schafer(Phil Trans Roy Soc 179: 303-327, 1888)が,サル大脳皮質各所の広範な破壊実験を行い,両側側頭葉内側部破壊例では記憶や情動に影響が現れることを記述したのを嚆矢として,Gudden(1896)やBechterew(1900)の脳炎患者の臨床病理学的研究,KluverとBucy(1938)のサルでの破壊実験研究,ScovilleとMilner(1957)による難治性てんかん患者の側頭葉内側部両側除去手術などによって,海馬を中心とする領域が記憶形成に密接に関与することがわかってきた。以来50年余にわたり記憶・学習の研究は,心理学,生理学,解剖学的研究から大いに発展し,記憶の種類,記憶の保持時間,記憶に関与する脳部位などの所見が積み重ねられてきた。
また記憶形成のメカニズムを探る研究では,1970年代前半にBlissやLo/moらが海馬で起こるlong-lasting enhancementの現象を報告してから,細胞レベルで起こる長期増強現象の分子生物学的,生理学的研究が爆発的に進んできた。当初はニューロン個々,あるいはone-to-oneの研究であったが,近年では細胞集団としての活動の解析や領域間のinteractionの研究へと発展し,さらに分子・遺伝子学的な解析,理論学的研究が注目を浴びている。しかしながら,記憶の形成,貯蔵,想起のメカニズム,コーディングのメカニズム,エピソード記憶と手続き記憶の違い,情動の記憶など,未解明の点もいまだ多く残っている。
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