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はじめに―ボツリヌス菌とボツリヌス毒素
ボツリヌス毒素は,グラム陽性嫌気桿菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生する分子量約15万の蛋白質であり,細胞外に分泌された後に菌自身のプロテアーゼまたは動物消化管のトリプシンによって,活性サブユニット(Aサブユニット,軽鎖)と結合サブユニット(Bサブユニット,重鎖)がS-S結合で結合した二本鎖蛋白となり,活性型のボツリヌス毒素となる。活性サブユニット(軽鎖)は毒素の本体である亜鉛結合性の金属プロテアーゼであり,結合サブユニット(重鎖)は標的となる神経細胞表面に特異的に存在し,毒素受容体となる特定の蛋白質との結合に関与する。ボツリヌス菌は菌の性状の差異によりⅠからⅣの4群に分けられ,ボツリヌス毒素は抗原性によりAからGの7型に区別されるが,ヒトはA,B,E,F型毒素で,動物(哺乳類,鳥類)はC,D型毒素で中毒する。ボツリヌス毒素のマウスへの最小致死量はわずか数pgであり,知られている細菌毒素や植物性毒素の中では最も強力である。A型ボツリヌス毒素のヒトに対する致死量は,筋肉注射の場合3,000~30,000単位(1単位はマウス腹腔内投与LD50値)と推定されているので,後述するボツリヌス毒素製品(ボトックス(R))の含量が1バイアル中100単位であることを考慮すれば,一度に30バイアル分を投与されることはまず考えられず,ボツリヌス毒素を用いた治療法が生命に及ぼす危険性は極めて低いと考えられる。本毒素は易熱性の蛋白であり,100℃1分または75~85℃5~10分の加熱で不活化され,また0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液などのアルカリでも失活する。ボツリヌス毒素は神経毒素であり,ボツリヌス症には食餌性ボツリヌス症,乳児ボツリヌス症,創傷ボツリヌス症がある。いずれも芽胞を産生する陽性嫌気性菌のボツリヌス菌が原因となる。本菌はボツリヌス毒素を産生し,血行性に主に神経筋接合部に到達し,この部からのアセチルコリン放出を阻害し,筋麻痺を引き起こすが,そのメカニズムは以下のとおりである。
A型ボツリヌス毒素はsynaptic vesicle protein 2(SV2),B型とG型毒素ではそれぞれsynaptotagminⅠとⅡが受容体として認識されており,運動神経終末に結合する。膜に結合した毒素は受容体介在型エンドサイトーシスにより,エンドゾームとして細胞内に取り込まれる。エンドゾーム内部が酸性化することにより,活性成分である軽鎖が細胞質内に送り込まれ,細胞質内で亜鉛メタロプロテアーゼとして,神経伝達物質のカルシウム依存性放出に関わるSNARE複合体蛋白を酵素的に切断する。その結果,運動神経終末においては,アセチルコリン放出を阻害し,筋の麻痺を引き起こす。各毒素サブタイプにより作用するSNARE蛋白は異なり,SNAP25はA,E,C1型,syntaxinはC型,VAMP/synaptobrevinにはB,D,F,G型が作用する1)。
さて,ボツリヌス毒素が作用するのは運動神経終末のみではない。自律神経節,副交感神経の節後線維終末,交感神経の節後神経終末(多量の毒素が必要)にも作用するため,発汗過多や唾液分泌過多に対する臨床応用が海外ではなされている(Table)。
Abstract
Preventive measures are necessary against contraction of botulism through food intake or due to other factors because the botulinum neurotoxin (BoNT) is one of the strongest toxins. Despite this, given its therapeutic utility in the controll of neuromuscular transmission, BoNT has been utilized to treat diseases related to muscular hyperactivity, such as dystonia and spasticity. Furthermore, it has been recognized that BoNT is also useful in controlling the neurotransmitter release of sensory and autonomic nerve terminals as well. This paper reviews the recent progress in the therapeutic use of BoNT in pain management, for example, in condition such as migraine, myofascial pain syndrome, pelvic pain, and interstitial cystitis.
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