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はじめに
食生活の欧米化により肥満者が急増し,その結果,2型糖尿病・脂質異常症・高血圧症などの生活習慣病が増加している.しかし,これら合併する生活習慣病のほとんどは,肥満した内臓脂肪細胞から種々のアディポサイトカインが過剰に分泌されるために起こったものである.それゆえ,減量により3%以上やせることができれば,これら肥満に伴う生活習慣病は改善されてしまう1).それなのに,多くの医師は,「肥満治療は難しい.一度減量させてもすぐ元に戻ってしまう.減量指導は時間の無駄だ」,「食べ過ぎるから肥満になるのだ.本人が悪い.つける薬もない」などと言う.確かにその先生方の考えにも一理ある.しかし,私は,最近5年間で,5%減量できれば成功という判定基準で,薬物療法なしで成功率93%(952/1,020)という成績をあげている2).何が他の医師と異なるのか.それは医師の患者へのより深い思いやりと熱意の違いによるのではないかと感じている.この思いやりのなかには,私が1995年以来研究を続けている肥満遺伝子の研究が大きく関わっている.つまり,医師を含めた多くの人は,肥満者のことを「理性もなく好きなだけ食べるから太るので,本人が悪い」と決めつけている.しかし,私は,肥満遺伝子の研究から,日本人には基礎代謝量が低下した倹約遺伝子をもつ人が多く,他の人と同じだけしか食べていなくても肥満する人が日本人には30%程度いることを知っているのである.たとえば,β3アドレナリン受容体遺伝子変異(Trp64Arg)は,日本人の30%以上に存在し,変異をもつ人は,変異をもたない人に比べ,基礎代謝量が200kcal低下しており,太りやすくやせにくいのである3).エネルギーが7,000kcal増えれば1 kg体重が増えるとされるが,同じものを食べていても,この遺伝子変異をもつ人はもたない人に比べ,35日間で1kg体重増加するのである.このように,肥満する原因には,本人が食べるから肥満するタイプと,親からの遺伝子の影響で肥満するタイプ,両方合わせもつタイプがある.そのため,肥満治療も一律に摂取カロリー量を決めていたのではうまくやせない4).肥満者に対する思いやりと減量に対する熱意から生まれたBox 1に示す肥満治療成功の秘訣は,やせにくい肥満患者に対する減量成功への一助になると思われる.本稿では代表的な減量成功例を挙げながら,この秘訣をどのように応用するかを紹介したい.
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