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□はじめに
糖尿病の注射治療といえばインスリン注射を意味していたが(低血糖のときのグルカゴンなどは別として),2010年インクレチン治療であるglucagon-like peptide-1(GLP-1)の誘導体であるliraglutide(Lira)が日本でも認可・保険適用となり,単独ではほとんど低血糖がないこと,食後を中心に血糖が低下すること,細かい容量調整がいらないことなどから,非常に大きな期待がかけられている.すなわち2型糖尿病における注射での治療戦略が大きく変化しようとしている時期にあたっている.
一方,インスリン治療については,1型糖尿病はその多くの症例で,インスリン分泌の絶対的不足があり,インスリン治療がその治療の根幹となる.また,近年の研究から2型糖尿病といえども本質的に進行性のインスリン分泌障害があることは明確になってきており,個人による違い(遺伝,環境,治療法)はあるものの病歴が長くなればなるほどインスリン分泌能が低下し,経口薬のみでは十分なコントロールができない患者さんが増加する現実がある.したがって,少しでもよりよい血糖コントロール実現のためには,内服薬のみでは不十分で,注射薬による治療の必要な方はかなりの頻度で存在する.とはいうものの,糖尿病データマネージメント研究会1)のデータをみると,インスリン治療中でもHbA1c(JDS値)6.5%未満の症例は13.6%であり,現況のインスリン治療そのものが満足できる状態に至っていないのも現状である.
他方,後述するがLiraの登場で2型糖尿病ではインスリン治療の必要がかなり減る可能性があると考えられるが,人類で長期間GLP-1作用を賦活した歴史はなく,思わぬ副作用が出ない保証はない.また,腎障害・肝障害など合併症があるときや手術,著しく糖代謝が乱れたとき,妊娠時などはもちろんであるが,通常の治療においても安全性が確立され,その使用に十分の経験のあるインスリン注射が治療の大きな柱であり続けるであろうし,GLP-1受容体作動薬が完全に取って代わることはないであろう.
本稿では現況のインスリン治療の現状,問題を整理し,今後の発展方向をインクレチン治療薬である注射のGLP-1受容体作動薬のポジショニングと関連させて述べたいと思う.
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