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Case 1
低血糖が怖くて水泳ができない17歳の1型糖尿病男性
現病歴:15歳時の学校検尿で発見され,以後速効型インスリン3回と中間型インスリン1回の4回注射と自己血糖測定を問題なく行っている.しかし,運動時の血糖変動が激しく,また,低血糖に対する不安が増強するため,運動部をやめた.さらに,体育も水泳をやめ,修学旅行も参加しなくなり,学校の先生から紹介された.
初診時身体所見:身長167 cm,体重52 kg(BMI 18.6)と肥満はなく,眼底A0A0.HbA1C 6.8%.
初診時面接にて:糖尿病合併症のことや低血糖に対する処置も理解していたが,運動強度に応じたインスリン量の調節や補食の取り方がわからず,「いろいろ運動すると血糖が変動するし,水泳中に低血糖になると溺れてしまうじゃないですか」という.血糖を良好に保つことは大切だが,健全な日常生活を送っていないことは改善すべきことであることを説明し,運動時の血糖コントロールの方法を具体的に話し合い,徐々に通常の生活に戻りつつある.
Case 2
夜間重症低血糖を起こした7歳女児
現病歴:6歳発症の1型糖尿病.ペンフィル30 Rの1日2回注射とカロリー計算,食後の運動を指示され3カ月後退院.退院3カ月後,午後9時頃,けいれんを伴う重症低血糖を経験したことを契機に,夜間に頻回の血糖自己測定(SMBG)を開始.しかし,血糖コントロールが悪化するため紹介された.初診時7歳でHbA1C 9.8%.低血糖の当日は運動会だった.夕食までは特に低血糖もなかった.夕食前(18時)血糖値98 mg/dLのためいつものようにインスリンを注射し,夕食後の散歩は運動会で疲れていたので中止した.20時,何となく元気がなくなり,血糖値が65 mg/dLのため補食をあげようとした時,突然けいれんした.糖質の経口摂取が困難でかつグルカゴン注射も処方されていなかったため救急車で搬送された.その後母親は,「常に血糖を測定しないと恐くて眠れません」と訴え,血糖コントロールも悪化してきた.発症10カ月後にサマーキャンプの情報を自力で得,専門的医療を希望し当科受診となった.
その後の経過:ハネムーン期(本号526頁参照)と運動終了6~15時間後に生ずる遅発型低血糖について説明した.母親は理解したが,そのような情報を前もって与えてくれなかったことに対する不満を示した.その後,母親に対する精神的サポートをくり返し行い,深夜の頻回のSMBGがなくなったのは4年後だった.しかし,まだ病気の受け入れは十分とはいえず,血糖を高くしてしまう行動を行い,患児も影響を受けているが,少しずつ改善傾向にある.
Case 3
家庭の問題が明らかな肥満の17歳の2型糖尿病女性
現病歴:両親が2型糖尿病.8歳時に両親が別居した.この頃からいじめが始まり,10歳から不登校.12歳からひきこもり状態になり,過食が始まった.13歳の学校検尿で尿糖陽性だったが精密検査を受けなかった.14歳の学校検尿でも尿糖陽性だったため,養護教員の勧めで当科に紹介された.
初診時所見:身長159 cm,体重78 kg(BMI 30.9)でHbA1C は12.7%.
臨床経過:初診時母親の立場に共感した信頼関係を築いたうえで食事,運動療法を開始した.カウンセリングを併用し,必ず本人が納得する形で治療を進めた.入院中は一緒に散歩し,退院後は登下校以外に運動を強制しなかった.wrist cut,パニックなどの異常行動もみられるようになったが,同時に感情表出も増え,登校,アルバイトも可能となった.現在体重64 kg(BMI 25.3)でHbA1C 6.3%.
Case 4
運動療法が有効であった48歳男性
身長172 cm,体重65 kg.安静時心拍数62拍/分.
職業:会社員(デスクワーク中心),妻と子ども2人(高校生・中学生)の4人暮らし.
現病歴:集団検診にて,2型糖尿病と診断.空腹時血糖値269 mg/dL,HbA1C 13.6%であった.
運動療法の経過:当院へ糖尿病教育入院となった.運動強度設定は,カルボーネンの式「(220-年齢-安静時心拍数)×k+安静時心拍数」のkの値を,0.4または0.5,すなわち目標心拍数をそれぞれ106拍/分,117拍/分と設定し運動を負荷した.運動は心拍数測定下にエルゴメーターを使用した.ウォーミングアップに5分,主運動20~30分(すなわち目標運動心拍数で)を,クールダウンとして3~5分行わせた.
運動負荷後Borgの指数(自覚的運動強度:RPE)では,前者では「やや楽」,後者では「ややきつい」という結果であった.
そこで運動強度は,心拍数で106拍/分以上で117拍/分を超えない程度とした.この運動強度で教育入院中は,1週間のうち5日運動訓練を行った.上記以外の運動負荷以外には,1日の歩行数を測定するために,万歩計ライフコーダー(スズケン社製)を装着させた.
退院後の運動療法としては,自転車エルゴメーターと歩行を中心に置き指導した.退院後の運動を維持させるため,自転車エルゴメーターを購入していただき,万歩計で1日最低5,000歩を指示した.
その後定期的に月1回フォローし,7カ月間9月まで体重並びにHbA1Cの値を指標とした.結果はBox 1のように,体重は3月には65 kgだったものが,9月には56.5 kgに低下し,HbA1Cの値も13.6%から6.1%に改善した.
本ケースは,1カ月ごとの定期フォローで,体重の減少およびHbA1C値の改善が訓練の継続の動機付けとなり,途中で挫折することなく運動が継続できた良い例である.
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