シネマ解題 映画は楽しい考える糧[60]
「いのちの食べかた」
浅井 篤
1
1熊本大学大学院生命科学研究部生命倫理学分野
pp.477
発行日 2012年6月15日
Published Date 2012/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414102528
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きわめて中立的な作り手による「食」ドキュメンタリー
私のまったく知らない世界についてのドキュメンタリー.毎日必ず手にとって口に入れるのに,その出自・来歴を知らないままでいた,食べ物の生産に関するきわめて中立的で真面目なノン・フィクション作品です.動物愛護や菜食主義のグループ,はたまたファーストフード業界の手によるものではありません.穀物,野菜,肉,魚,果物など16種類の食べ物がどのように生産され,加工され,私たちの胃袋に入る状態になるのかを淡々と描き出していきます.台詞なしの92分.
ノン・フィクションであっても,完全にニュートラルにこの世に起きていることを鑑賞者に提示することは困難でしょう.製作の第一歩は作り手の問題意識です.問題意識は何らかのメッセージを伴うことが多いでしょう.作品には脚本があり編集があり効果音もあります.事実を切り取り並べ替え強弱をつける過程で,どうしても作り手の意識が入らざるを得ません.何を見せないという選択も大きなインパクトを持つでしょう.このようなことを考慮にいれても,本作品は誠実で可能な限りすべてを映し出そうとしているドキュメンタリー映画でした.この意味で以前取り上げたマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「シッコ」とは,どちらが良いという問題ではなく,明らかに一線を画しています.
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