老景十二話・11 〈老い〉の中に世界が見える
食べる
三好 春樹
,
三好 京
pp.1314
発行日 1986年11月1日
Published Date 1986/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661921577
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右片マヒの0さん(68歳)は,長い間病院で付き添いさんに介助してもらっていたせいで,食事を自分で張ろうとしない.多少不自由でも左手で食べられないはずはないから,職員の方は,さまざまな工夫を試みては,Oさんに自分で食べるよう促す.握りやすいようにスプーンの柄を太くする,すくいやすいような皿を使う,お皿がすべらないようゴム製のマットを敷くetc…….それでも0さんはウンとは言わず,いつも寮母さんの介助を待っている.
ある日,昼食の献立はカレーライス.たまたま寮母さんが忙しくて介助に行くのが遅れた.すると1人でスプーンを握って食べているではないか.その日以来彼の食事は自立した.1か月以上にわたって膳に柄の太いスプーンを付け続けた職員側の確信と執念,それに,偶然を“偶然”に終わらせない姿勢の結果であった.面白いことに,こうして食事動作が自立すると,柄の太いスプーンは不要で,むしろふつうのスプーンの方が使い易いというし,皿やマットといった工夫も必ずしも必要ないのである.
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