シネマ解題 映画は楽しい考える糧[18]
「母たちの村」
浅井 篤
1
1熊本大学大学院医学薬学研究部生命倫理学分野
pp.1051
発行日 2008年12月15日
Published Date 2008/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101586
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女性の尊厳―「女子割礼」をめぐって
本作品は,現在もアフリカ地方で行われている女性性器切除(FGM:female genital mutilation)とその悪しき慣習を打ち破ろうと立ち上がった女性たちの物語です.総合診療というよりは国際保健に分類される問題かもしれませんが,人々の健康維持を生業とする医師としてはぜひ知っておかなければならないテーマだと思い取り上げました.残念ながら今も根絶されていない女性差別と人権無視の存在を心に留めておくためにも重要な1本です.
物語は,西アフリカのある村に住むコレという女性のもとに,女性性器切除から逃れるために4人の少女が助けを求めて駆け込んで来るところから始まります.コレ自身,少女時代に受けた性器切除のせいで2人の子どもを死産し,3人目は心窩部にまで至る腹部正中切開で出産しなければなりませんでした.彼女は,自分の娘にはそんな思いは決してさせないと,村の掟に逆らい性器切除をさせませんでした.それを知っていた少女たちが彼女に保護を求めたのです.4人をかくまったコレは原題にもなっている「モーラーデ」を宣言し,自分の家の門に縄を張ります.モーラーデとは「そこに逃げ込めば何人の力も,法の力も及ばないという避難所」という意味をもった言葉で,窮地に陥った人が,ある人物・家族や王国に保護を求めることを意味します.「駆け込み寺」に似たようなものかもしれません.
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