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なぜ主人公は生体解剖に手を染めたのか
時は終戦間近の昭和20年,舞台は架空の旧帝大医学部付属病院.第一外科医局の医学研究生の勝呂と戸田は大部屋に入院している多くの肺結核患者の治療にあたっていました.日常的に病院が爆撃されるという状況においても,教授たちは医学部長選挙に向けての根回しや点数稼ぎに余念がありません.第一外科の教授は学部長選を有利に進めるためVIP患者の手術をしますが失血死させてしまい,形勢を立て直すべく米軍捕虜8名の生体解剖の依頼を軍医官から受けることを決意します.もし嫌なら仕方がない,強制じゃないと前置きされて,主人公2人は米兵8名の生体解剖の手伝いを依頼されます.勝呂はうやむやのまま,戸田は躊躇なく解剖参加を承諾し,教官3名,研究生2名,看護師2名の7名が軍部と協力して極秘裏に生体解剖を開始するのでした.
本作品の中心的な問いは,なぜ彼ら7名,とくに主人公2人が生体解剖などという行為に手を染めてしまったかでしょう.相手はいずれにせよ銃殺刑で殺される者だから,B29で日本を何度も爆撃し多くの邦人を無差別に殺した敵だから,日本人ではないから,戦争という異常な状況下だから,軍部には逆らえないから,教授の依頼は断れないから,医学の発展のため,医者として願ってもない機会だから,出世したいから,銃殺より麻酔で眠りながら死んだほうが本人のためだから,敗戦の色濃く空襲で患者も含め多くの人々がばたばたと死んでいく状況で何もかもどうでもよくなってしまったからでしょうか?それとも彼らが例外的に性格異常だったから,人間としての良心が欠如していたから,見えない圧力を感じたから,それとも日本人の心に神がいないからなのでしょうか.もちろん映画ははっきりした答えを提示しません.勝呂自身にもわかりません.観る者がそれぞれ考えて答えを見つけていく必要があります.一緒に考えていきましょう.
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