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症例呈示
患 者:26歳,男性.
職 業:実家のパーマ店の手伝い.
主 訴:吐き気,嘔吐.
現病歴および診療の経緯:受診前日から吐き気,嘔吐が始まった.しかし,腹痛,頭痛の自覚はなく,病院の消化器科を受診した.かぜ症状は認められず,一般内科的診察でも異常所見がなく,スクリーニング的血液至急検査でも異常所見は認められなかった.最近,母親が癌の末期状態であるという家庭事情があり,その心労のための「ストレス性急性胃炎」の疑いという診断で,胃薬が投与された.
その後,症状はほぼ改善していたが,約2週間経った頃から再び吐き気,嘔吐症状が始まった.このため一般内科を再受診し,腹部の触診,腹部エコーなどが行われたが,異常所見は認められず,後日施行された胃カメラでも異常所見は認められなかった.
この診療にあたった担当医がたまたま神経内科医であったため,最後に,習慣となっている腱反射検査を座位のまま施行したところ,両側の膝蓋腱反射が異常に亢進しており,ハンマーで膝をたたいた際に足を蹴り上げるような動作となった.このため,ベッド上でさらに詳しい神経学的検査を施行したところ,両側上肢の二頭筋腱反射および下顎反射も亢進が認められ,足底部の病的反射であるバビンスキー反射も両側に陽性であった.
この神経学的所見から考えられることとしてはまず,両側バビンスキー反射陽性および膝蓋腱反射亢進所見から腰髄L4以上の両側錐体路(上位運動経路)の障害が推測された(図2の最下位からの色線の経路).上肢二頭筋腱反射亢進からさらに頸髄C5以上の障害(図2の色の二重線)が,下顎反射亢進から病巣はさらに脳幹部pons(橋)中部の三叉神経運動核以上の両側性にあると(図2の最も上位の色線)推測された.すなわち,病巣は橋以上の赤色線(3重)の共通部分である両側の運動神経路を巻き込む広範囲な領域ではあるが,他の神経系の障害はほとんど認められない点から,何らかの原因で前頭葉からの運動経路がかなり特異的に障害されているのではないかと考えられたために,頭部CT,MRI検査が施行された.
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