Editorial
かえりみちのないことは
松村 真司
1
1松村医院
pp.863
発行日 2006年11月1日
Published Date 2006/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414100441
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マーティン・スコセッシ監督による,ボブ・ディランの1966年の英国ツアーに至るまでの軌跡を描いたドキュメンタリー映画「ノー・ディレクション・ホーム」を見た.アコースティックギターの弾き語りで頂点にあったディランが,エレクトリックギターを抱えてステージに立つ.それまでと全く違う姿に彼の熱心な支持者ほど戸惑い,激しく反発する.客席から「ユダ(裏切り者)」と呼ばれ,非難を一身に受けるディランが,ファンに向かって「お前らは嘘つきだ」と言い放ち,バンドに「デカイ音でいこう」と声をかけ,「ライク・ア・ローリング・ストーン」の演奏を始めるシーンでこの映画は終わる.
先日,狭い我が家がますます手狭になってきたので,いろいろなものを捨てた.長く使ってきた愛着ある医学書を捨てるのには気が咎めたが,今の自分に必要な空間を作ることを優先させた.情報収集には電子媒体を用いることが多くなり,医学書を見る機会が激減したことも理由のひとつである.同時に,戸棚の一角を占めていたPCや,周辺機器もすべて処分した.ここ数年で,保存メディアはZip,MO,CD-R,USBメモリへと急速に小型化,大容量化が進んだ.今や,私の蓄積したこれまでの仕事は小指の先ほどの大きさにすべて収まっている.便利なようだが,なんだか悲しくもある.
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