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Case
患者:50歳の女性,無職.
主訴:頭部挫創.
現病歴:路上を歩行していたところ,突然,目の前が暗くなり転倒した.転倒時に頭部を打撲し,後頭部から出血を認めたため,救急来院した.なお,胸痛や動悸は自覚しなかった.目撃者によれば,突然,崩れるように倒れ,唸り声とともに上肢を伸展させるような痙攣が数秒間出現したという.意識を失っていた時間は約1分ほどであった.
既往歴:不整脈のため,他院に通院し,抗不整脈薬を処方されていた(詳細不明).
家族歴:特記すべきことなし.
来院時現症:意識清明,呼吸数15/分,心拍数60/分・整,血圧128/70 mmHg,体温36.7℃,後頭部に3 cm大の挫創あり,神経学的所見に異常なし.
対応:末梢血および生化学検査に特記すべき異常を認めず,頭部および胸部X線検査と頭部CTスキャン検査においても特記すべき異常所見を認めなかった.心電図は図1のごとくであった.挫創部の縫合処置を施行後,「てんかん」の精査と創部の観察を目的に,翌日の外来受診を指示し,帰宅を許可した.しかし,翌日,心肺停止状態で救急来院した.
解説:本症例では,本人と目撃者からの病歴聴取は適切に行われたが,痙攣をてんかん発作と短絡的に考えたことが不適切であった.痙攣の原因として,とくにてんかん(症候性てんかんを含む)以外の原因の可能性を考える必要があった.本症例の病歴で,痙攣の持続時間が数秒間であったことは,一般的なてんかん発作における全身性の痙攣の持続時間としては短いこと,そして,早期に意識が回復していることが非典型的である.また,救急搬送患者では,発作直後に搬送されるので,意識状態が清明であることは少ない.さらに,全身性の痙攣による嫌気性代謝のために頻脈傾向をきたすことが多いが,本症例ではそれらも認めない.したがって,てんかんの発作による痙攣の可能性は低いと考えられる.むしろ,突然の一過性意識障害,数秒間の痙攣からは失神が疑われる.
失神の原因は多岐にわたるが,心臓病に伴う失神,すなわち心原性失神は突然死の前兆であるため,必ず鑑別しなければならない.このため,既往歴と家族歴を含めた病歴聴取のほかに,12誘導心電図は必須の検査である.本症例では,不整脈の既往,心電図異常(著明なQT延長:QTc=625 ms,接合部調律)から,不整脈による心原性失神を疑わなければならなかった.
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