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Case
くも膜下出血を見逃した例
患者:61歳,女性.
現病歴:自宅待機中の医師に「雪かきの最中に締め付けられるようなひどい頭痛があり,嘔吐した.診てもらえないか」と,かかりつけ患者から電話があった.頭痛は以前にあったこともあるとの病歴から,患者を診察せずに「片頭痛」と判断して市販鎮痛薬の服用を勧め,2時間後の電話で「軽快した」ことを確認した.
3日後,患者が受診し,「頭痛がぶり返して治らず,ズキンズキンして,薬が切れると痛む」と訴えた.30代の頃にも2,3回,嘔吐を伴う片側の拍動性頭痛の既往があったが,以来20年間経験していない.血圧154/70mmHg,神経学的診察では上方視で複視を訴え,頸はやや硬かった.くも膜下出血も考慮して念のため頭部CTを撮影し,陰性と判断してNSAIDsを処方して帰宅させた.
同日夕方,放射線医の読影で「くも膜下出血」と診断された.また,後の腰椎穿刺ではキサントクロミーが認められ,MRAでは内頸動脈と後交通動脈の分岐部の動脈瘤を認めた.結局,この患者は入院後,待機的にコイル塞栓術を施行したが,術後に動眼神経麻痺がやや残った.
このCaseの反省点は,「以前に同様の頭痛があった」「労作で悪化」などの言葉で短絡的に片頭痛と思い込んでしまい,通常の年齢ではないことや,新しく始まった頭痛であること,複視という異常所見があることを無視してしまったこと,CTで出血がないと思っても腰椎穿刺を行うという原則を守らなかったこと,である.くも膜下出血で痛みがすぐにピークに達するのは60%に過ぎず,また5~10%がCTは陰性であることを考慮すると,疑いがあればすぐに腰椎穿刺まで行うことが大切である.
「総合診療」あるいは「プライマリ・ケア」を実践する医師は,よくある頭痛を適切に診断・治療・予防し,クライエントの苦痛を緩和することが望まれる.「器質的」か「機能的」であるかという類別化(categorization)にはとらわれないようにしたい.
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