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合法的で倫理的,かつ医療経済的に許容される範囲内での,科学的論理に適った医療の実践が,21世紀初頭の現在,われわれ医師に求められていることに異論はないであろう.科学的論理に適った医療を実践するための考え方・手順がevidence-based medicine(EBM)であることも,過去約10年間の世界の医療の流れから明らかである.そして,わが国でも,EBMの概念の理解と必要性の認識が広がり,インフラとしての情報技術の発達と相俟って,最新最良のエビデンスを診療現場で使いやすい形式にまとめた二次情報(診療ガイドライン,Cochrane Library,クリニカル・パス,電子教科書など)が整備されるに至り,EBMを実践できる環境はほぼ整いつつある.
EBMについては,過去10数年間,国の内外で膨大な数の研究が行われ,それらの研究成果が実際の診療に導入される場面も,意識する,しないは別として,多々見受けられるようになってきた.わが国でのEBMの導入に当初から関わってきた者として,このような現状を隔世の感を持って眺めつつ,今後の重大な研究テーマとして,エビデンスの適用・不適用の判断に関するものが残っていることを強く意識せざるをえない.つまり,EBMの考え方・手順に則り,質の高いエビデンスを同定できたとしても,さまざまな理由で,診療現場では必ずしもそれが実践されるとは限らない.その背後には,わが国で行われた臨床研究の結果がそのままわが国の患者に当てはまるのかどうかという根強い不信・不安感,患者の意向やニーズとの整合性の問題をはじめとして,数多くの要因が横たわっていることは想像に難くない.この点についての研究論文を渉猟しても,多くのあいまいな点が残っている.
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