増刊号特集 泌尿器科画像診断
Ⅵ.メディカルエッセイ
「一度でいいから家族旅行がしたい」
井川 靖彦
1
1信州大学医学部泌尿器科
pp.276
発行日 1999年3月30日
Published Date 1999/3/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413902609
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U. T. さん(32歳,女性)が尿失禁を主訴に私の外来を訪れたのは1994年8月のことであった。1992年5月に両下肢麻痺で発症し,上部胸椎,縦隔,肝,胃に及ぶ悪性リンパ腫(臨床病期Ⅳ)の診断にて化学療法を受けたものの部分緩解までしか得られず,初診時現在も経口でVP16を内服中であるという。第5胸髄以下の完全麻痺で,尿路については1993年5月まで尿道留置カテーテルで管理されていたが,以降は叩打排尿で"オムツ’で対応していた。両下肢の痙性が強いため,尿道からの自己導尿は不能であった。IVP上,膀胱結石を認めたためにまず砕石術を行い,その上で膀胱収縮抑制薬を投与したが,反射性尿失禁は改善しなかった。1995年6月,CT上,傍大動脈および骨盤内リンパ節の多発性腫脹を指摘され,悪性リンパ腫は進行状態にあり,あともっても2〜3年と内科の主治医から本人にも宣告されていた。8歳になる娘さんがいて,「一度でいいから尿失禁のことを気にしないで娘と夫と3人で家族旅行がしたい」と切望していた。夫も本人が望むなら手術的治療でもよいから尿失禁を治してあげてほしいとのことであった。VideoUDS上は排尿筋外尿道括約筋協調不全を伴う排尿筋過反射で,膀胱尿管逆流は認めなかった。内科の主治医とも相談し,結局は手術に踏み切ることになった。
1995年7月28日,S状結腸利用膀胱拡大術および虫垂を利用した禁制臍ストーマ造設術を同時に施行した。
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