Coffee break
忘れ得ぬ患者
辻 祐治
pp.143
発行日 1995年3月30日
Published Date 1995/3/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413901464
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週末の夕刻にTVを観ていると,米国で日本人青年が銃撃され脳死状態に陥っているというニュースが報道された。その名前に記憶があったため調べてみたところ,やはりあの患者に間違いない。父親に腹部を蹴られ,腎外傷として入院してきた10歳の男の子は先天性水腎症であることが分かった。教授に指導してもらい,研修医が終わってすぐの私が腎盂と尿管を縫合させてもらったが,術後の腎盂・尿管吻合部の通過性が悪く,なかなか腎瘻が抜けず大変に苦労した。忘れ得ぬ患者の一人である。まず「あんなに苦労して治療した患者が,なぜこんなことで命を落とさねばならんのか」という怒りと無力感が混じった感情が込み上げてきたが,次に考えたのは「臓器提供となった場合,手術した腎臓も移植出来るだろうか」ということであった。脳死患者からの臓器提供が社会的にも認められるよう切望されるが,そうなればわれわれが困惑させられる機会がまた増えるのであろう。
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