Coffee Break
生きた教科書
福井 巌
pp.99
発行日 1993年3月30日
Published Date 1993/3/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413900857
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表在性膀胱癌に膀胱部分切除と組織内照射を行い,術後2ヵ月間にもおよぶ尿瘻で苦しませたのを皮切に,幾多の辛酸をなめさせた患者さんがいる。5年間に3度の再発はまだよしとしても,6年目,BPHに対するTUR-Pでは後出血のため膀胱高位切開。この際,癒着していた小腸を損傷し腸瘻。7年目,萎縮膀胱による無尿のため腎瘻造設。再び出血が止らず徹夜で腎盂洗浄。知人を集め新鮮血輸血。8年目,カルボコンの膀胱内注入でアナフィラキシーショック。以後10年余,再発こそないものの徐々に腎機能荒廃し,19年目,77歳の年齢で血液透析に導入。ざっと20年の治療歴を顧みるに「ドブに叩き落としては拾い上げている」との先輩の言に返すべき言葉もない。にもかかわらず,我が泌尿器科人生の大半にわたって辛抱強くお付きあい頂き,教科書からは学べない多くの教訓を賜ったことは感謝の念に堪えない。
「患者は生きた教科書」とはよくいわれるが,患者の災が医師の肥しになるというのも皮肉にして哀しい話ではある。この患者さんは自戒の1例として一生忘れられない,大切な患者さんである。
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