書評
病状説明―ケースで学ぶハートとスキル―天野雅之 著
藤沼 康樹
1
1日本医療福祉生協連合会家庭医療学開発センター
pp.451
発行日 2020年6月20日
Published Date 2020/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413206949
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医師は患者の診断と治療を行う仕事であると一般にはイメージされています.しかし,実は患者や家族に何らかの「説明」をすることに,医師は多くの時間を費やしています.入院時の説明,病状の説明,予後の説明,退院や転院の説明,お看取り後の説明など,実に多くの場面で「説明」をしているのです.こうした「説明」がわかりやすいタイプの医師とわかりにくい,伝わりにくいタイプの医師がいることは私の経験上も明らかです.例えば,病状説明をするときに,疾患の病態生理をまるで学生に講義するように行う医師もいれば,まず患者の様子をみて「いかがですか?」と開かれた質問を使って説明相手の感情にアプローチする医師もいます.おそらく説明する内容(コンテンツ)は医学知識に由来するものでしょうが,その語り口はほぼ個々の医師の「個性」と従来は見なされていたように思います.この個性は医師自身の生育史や価値観に相当依存したもので,ある種のバイアスに満ちています.しかも,退院や転院の説明などは,医学知識の伝達というよりは,ある種の意思決定を伝えて同意をしてもらうということですし,治療の説明は患者・家族と医療者で協働の意思決定を要するので,単なる伝達ではあり得ず,ヘルスコミュニケーションの中でも最も難しい部類に入るもので,「個性」だけに依存していると,うまくいかない場合の対処に困り,医師自らが困難事例を生み出してしまうことになりかねません.
この『病状説明 ケースで学ぶハートとスキル』という本では,この「説明」する仕事をする専門職という視座から,患者・家族と医療者のコミュニケーション全般を再構成しようとする野心的な試みが行われています.
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