交見室
「エホバの証人」と輸血拒否
矢崎 恒忠
1
1筑波大臨床医学系泌尿器科
pp.1126
発行日 1981年11月20日
Published Date 1981/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413203251
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「エホバの証人」と輸血拒否の問題は本邦では稀である。最近われわれはこのような症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告し読者諸兄の参考としたい。患者は76歳男性で肉眼的血尿を繰返すために入院し諸検査の結果,右腎盂腫瘍と診断された。貧血以外特に異常所見はなく,外科療法が最善と考えられた。しかし患者は,自分は「エホバの証人」の信者であり宗教上の理由でいかなる事態が生じても輸血は拒否すると主張した。一方,家族は信者ではなく,必要があればぜひ輸血をしてほしいと強く希望した。故にでき得る限り出血量を減らし万一輸血を必要とする場合でも一切輸血はしないと約束し,患者および家族の承諾を得た。更に手術承諾証に患者の意志を記載してもらつた。以上の事情を担当麻酔医にも説明し了承を得て手術を行なつた。型のごとく摘除術を終了し創部を閉じるために患者の体位を変更したところ突然出血し始めた。至急止血したがかなりの出血のため輸血が必要な状態になつた。しかし,約束通り血液製剤は一切使用しなかつたため高度の貧血と低タンパク血症になつたが術後特に問題なく創の治癒も予想外に良好であった。
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