メディカルエッセイ
恩師の影響力
菊地 栄次
1
1慶應義塾大学医学部泌尿器科
pp.194
発行日 2009年4月5日
Published Date 2009/4/5
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413101716
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- 文献概要
泌尿器科医として15年が経過した。診療,手術,研究に従事するだけでなく,後進の教育にも身を入れて取り組まなくてはならない時期を迎えた。教育指導,これがなかなか難しく,力技で相手にわからせたようで,その実,何も伝わっていなかったりもする。そもそも教育指導には明確なゴールはなく,教える側もなかなか満足感が得られないのが実際のところであろう。この執筆を機会に自分が受けてきた教育指導を振り返ってみた。それは恩師との出会いから始まった。まずここでは3人の恩師に登場してもらう。
恩師Aは厳格な人である。決して後進をほめず,厳しさの上に厳しさを上乗せして指導を進めていく。教室での学会発表の予演会のことである。我ながら内容のまとまったスライドを作成したと自負して臨んだが,恩師Aはスライドが映写されるや否やスライドの背景の色が気に入らないと,発表の冒頭,30分も説教を始めた。おそらく内容だけにこだわらず,聞き手に視覚的にわかりやすい発表をすべしとの教えであったと,今では冷静に判断できるが,そのときの私は若輩者で,そのお叱りにむくれてしまったことを覚えている。その恩師Aになぜ魅了されたかというと,時折みせる責任感とほのかな優しさが絶妙なタイミングで訪れ,また「自分のすべてを君たちに教える」と全身を使って指導にあたられたからであろう。私たちは恩師Aに認めてもらいたくて,おのずと仕事に打ち込んでいくわけである。
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