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日本山岳会の会報「山 No.740」(平成19年1月号)に,大野秀樹氏の評論「高地と遺伝子―山での悲劇を防ぐために」おいて,「高所登山において,自分の遺伝子型を知ることが高度順応を進めるモチベーションを高めるうえで必要である」ことを提唱しています。近年,代表的高地住民であるエチオピア人,チベット民族,アンデス高原に住む人々の遺伝子多型の差異・SNP研究が注目されています。その結果,高所順応にはアンギオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子の多型が重要で,日本人の約4分の1に存在するDD多型の人は無酸素で8,000m峰には登れず,しかも持久運動能力も小さいという報告がなされています。もちろん,この遺伝子解析研究サイスに問題がないわけではなく,また本邦の持続運動の一流アスリートにはACE・DD多型の人が数多く存在する事実も知られています。したがって,遺伝子多型のみで高所順応を説明することに問題があるかもしれません。しかし,小生にとりましては,医学・医療が対象の主体と考えられていた遺伝子多型研究・SNP解析情報の応用は,スポーツ界,なかでも決してポピュラーとはいえない高所登山の戦略を決める情報として導入されつつある現状は大きな衝撃です。今や,遺伝子研究・情報は,身近な話題になっている事実を認識しました。
さて,今月号の綜説は,自冶医科大学の森田辰男教授にお願いしました。5-FUの代謝に関与する酵素であるthymidine phosphorylase(TP)は,5-FUのプロドラッグである5'-DFURを5-FUに変換させることで注目されてきました。本論文では,TPの体内分布,機能に関し広範に解説しています。古くて新しい5-FU系抗癌剤に再注目する必要性が指摘されていると思います。手術手技は,根治的腎摘除術について,まさに「腹腔鏡下手術時代における開放手術」の観点から十分なボリュウムで解説された内容になっています。特に,術者の「間違った自尊心」への警告,極力小切開に努める努力の必要性,難易性の高い拡大手術の役割など著者の姿勢・顔を推察できる興味深い示唆に富む内容です。セミナーは,横田崇先生にご執筆いただきました。前立腺肥大症について,実際に外来で診療する場面において役立つ診療ガイドラインに沿った整理された内容です。また,南アフリカ・ケープタウンで開催されましたSIUの学会印象記を2名の先生にお願いしました。素晴らしい学会,旅行であったことが生き生きと伝わります。参加できなかった小生にとりまして,羨ましい限りです。交見室には「クラミジア陽性についての患者さんに,いかに説明するか」についての問題提起が寄せられました。同様の問題を抱えている読者の皆様も多いと推察します。ぜひ,多くの皆様にこの議論に加わっていただきたいと思います。そのほか,原著が1編,症例が2編,画像診断が1編で,いずれも興味深い力作です。 今月号も読者の皆様に満足いただける内容であると自負しています。
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