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浸潤性膀胱癌の術前診断はunder-stageされていることが多々ある1)。これは,画像診断で深達度が把握しにくいことと,膀胱癌はときに大きな腫瘍胞巣を形成せずに周囲に浸潤することがあり,臨床では開腹後,かなりの浸潤癌であることが判明したり,周囲の脂肪織内にがん細胞が進展していることを経験することになる。また設問の症例のごとく,膀胱前壁の腫瘍では内視鏡で十分に確認しにくいこと,前壁と前立腺は角度をなしていることなどより,CTなどの画像診断では病巣が接線方向にスキャンされ,術前に十分に評価されていないことがある。周囲の癒着を認める原因としては,このようながん細胞の膀胱前腔への進展のほかに,経尿道的前立腺摘除術(TURP)時の炎症や穿孔による灌流液の漏出,あるいは前壁の経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)による変化などもありうる。
設問の症例のような状態を認めた場合には,その原因が単なる炎症なのか,がん細胞の進展によるものなのかを判定することが肝要であり,癒着した組織の術中迅速診を行うべきである。もし癒着した組織内にがん細胞が確認される場合はT4膀胱癌となり,5年生存率は20%以下と2,3),その予後はきわめて不良であり,手術療法による根治は一般的に困難である。膀胱全摘除術を強行することも可能ではあるが,このような症例に対して切除せずに閉腹した場合に比較して,無理に手術を続行したほうが腹膜播種や骨転移などをより早期にきたす印象を持っている。膀胱全摘除術は侵襲の大きな手術であり,現在の膀胱癌に対する抗がん剤治療の効果を考慮すると3,4),不完全切除になった状況に対して術後補助療法を行うことで改善できる可能性は少ない。したがって,われわれは切除不能と判断されるT4膀胱癌に対しては特殊な条件以外では膀胱の摘出は断念し,膀胱癌の進展によるQOL(quality of life)の低下を考慮して尿路変向のみ行うようにしている。
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