- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
蓄尿バッグやそれにつながる接続チューブが青~青紫~紫~赤紫~赤色に着色する現象は,紫色蓄尿バッグ症候群(purple urine bag syndrome)として知られている。何らかの排尿障害により,やむなく長期間にわたって尿道留置カテーテルを装着している患者や種々の尿路変向(腎瘻,膀胱瘻,尿管皮膚瘻など)を余儀なくされている患者において,ときおり認められる状態である。最も頻繁にはリハビリテーション施設や高齢者入所施設で,最近では在宅医療現場でしばしば認められ,これらに関与する医療者の多くが経験しているものと想像される。その訴えとしては,主に看護師や介護者から,「なぜ尿が紫色になるのか?」「何か悪い病態なのか?」「治療の必要はないのか?」「気持ちが悪いので何とかしてほしい」などという種類のものが多いようである。
紫色蓄尿バッグ症候群は,Barlowら1)によって最初に報告され,その後,本邦においても報告が散見される。Deallerら2)は,その着色物質がインジゴ青やインジゴ赤であることから,トリプトファン代謝にかかわる生合成経路に注目し,その発生機序を推論している(図1)。すなわち,必須アミノ酸の1つであるトリプトファンは,腸管内において腸内細菌によりインドールに分解される。インドールは腸管から吸収されるが,体内では有害であるため,肝臓で硫酸抱合後,無害なインジカンに代謝され,最終的には尿中に排泄される。そこに尿路感染が合併していると,尿中の細菌によりインジカンは加水分解を経てインドキシルに変換される。インドキシルは2分子が縮合し,酸化されるとインジゴ青(一般的にはこれがインジゴと呼ばれている)となる。一方,インドキシルは酸化によりイサチンに変換され,その2分子が縮合してインジゴ赤(インジルビン)になる。これらの反応には,いずれも細菌の関与が必須である。このような経路で産生されたインジゴ青やインジゴ赤は,蓄尿バッグや接続チューブ類を構成するプラスティックポリマーに付着しやすいため,紫色蓄尿バッグ症候群が生じるものと考えられている。同じ検体であっても,集尿容器がガラス製のものでは,ほとんど着色しないことも特徴である3)。
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.