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1 はじめに
「前立腺肥大症は増加しているか」という問いに答えることは非常に難しい。その理由としては,第一に前立腺肥大症の定義が明確ではないことがある。前立腺肥大症(benign prostate hyperplasia:BPH)とは前立腺肥大(benign prostate enlargement:BPE)により生じる膀胱出口閉塞(bladder outlet obstruction:BOO)により自他覚的排尿症状が出現するものである。しかし周知のとおり,BPEがあるからといって必ずしも排尿障害が出現するわけではない。BOOをきたす病態は様々であるし,自覚症状の出現にも個人差がある。前立腺肥大症の診断に用いられる自覚症状評価のための国際前立腺症状スコア(International Prostatic Symptom Score:IPSS),前立腺推定重量測定の経直腸前立腺超音波検査がルーチンに行われるようになったのはここ10年ほどであり,過去と現在を比較することは不可能である。
第二に前立腺肥大症の自然史がほとんど解明されてないことがあげられる。前立腺肥大症が本当に増えているかどうかを検討するには優れた疫学研究が必須である。多くのバイアスのかからない対象を定点観測するような横断的研究(cross sectional study),縦断的研究(longitudinal study)が求められる。最近10年ほど,自然史に関する優れたcommunity-based studyやlongitudinal studyの検討が徐々に行われつつある。前立腺肥大症自然史全容の解明にはほど遠いが,断片的ではあるにせよdataは出始めている。本稿ではそれらを基にして「前立腺肥大症は増加しているか」という質問に対する回答を試みてみたい。
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