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昨年の第93回日本泌尿器科学会総会での総合企画「腎癌の診断治療」におきまして,小径腎癌に対する手術方法についてのアンサーチェックが行われました。その結果は,患者に対してもまた回答する医者自身が患者であった場合にも,開放手術での腎部分切除術が圧倒的に多い回答であったことにはやや驚きを覚えました。腎癌に対する手術術式としては,Robsonの提唱した同側副腎の合併切除とリンパ節郭清を行う腎摘除術が基本的なものであると考えられてきた長い歴史がありますが,確かに今日ではリンパ節郭清の必要性には異論が出てきており,また副腎合併切除についても必要のない症例があるとの認識をお持ちの先生方も多いものと思われ,旧来の考え方が変わってきているのは事実です。また,腎部分切除術は腎摘除術とほぼ同等の治療成績であるとの報告もたくさんある一方,腎部分切除術にはsatellite tumorの存在の可能性から否定的な論文もいくつか報告されています。私自身は小径腎癌に対する腎部分切除については,imperative caseでは術後のQOLを低下させる透析を回避できる可能性から積極的に検討すべきではあるが,erective caseでは根治が最大の目的であるため上記のsatellite tumorの存在や残存病変が起こる可能性があることから,その適応にはより慎重になるべきであると理解していました。これらのことより,学会における検討でのこの結果を見た際には,エビデンスに基づく必要はないとされた意見ではあったものの,やや意外に思った次第です。機能温存も重要な点ですが,多くの術者が術後のQOLの改善を重要視してminimum invasive surgeryを目指している今日,それでも侵襲の多い開放手術による腎部分切除術が他の方法に大差をつけて第1位に選ばれたことを,どのように理解すればいいのかわかりませんでした。最近では検診などにて発見される小径腎癌がほとんどであることから,回答された先生方がこの回答のごとくに手術を行っておられるとしたら腎部分切除の割合が腎摘除と比較して圧倒的に多くないとおかしいと考えられますが……。ご回答は実際に行っておられるものではなく,先生方の理想をお答えになったということなのでしょうか? われわれは小径腎癌に対しては,腎部分切除術が可能であると判断した際は,患者に腎部分切除術が最も適切な治療法であると勧めるべきであるという解釈でよろしいのでしょうか? このような感想を持った者は私だけではないと思われますので,腎癌研究会やその他関連学会の先生方には腎癌,特に小径腎癌における適切な手術方法につきまして,私ども一般の勤務医にも混乱なく理解できるガイドライン的なものをご提示いただければ幸いに存じます。そうしていただくことにより,術者ができるからまたやりたいからその手術術式を選択するのではなく,術者がより論理的な方法で術式決定を行って患者に提示できるようになればと考えている次第です。よろしくお願いいたします。
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