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われわれは2002年より前立腺癌に対し内視鏡下小切開前立腺全摘術を開始した。本手術は下腹部正中に4~5cmの小切開創をおき,この単一創から内視鏡を挿入するとともに,すべての手術操作を行い,鏡視下に前立腺全摘を行う手術である。本手術は低侵襲性という点では,腹腔鏡手術に匹敵する一方,基本的な手術操作が通常の恥骨後式前立腺全摘術の延長上にあるため,容易にその手技を獲得できるという特徴がある。また内視鏡観察下に手術を行うため,通常の開放手術では観察しにくい深部の操作時に良好な視野が得られ,より正確な前立腺全摘ができるという利点もある。しかしながら,本手術を円滑に行うためには,やはりいくつかの通常の開放手術にはない工夫が必要である。特に,狭い創からいかに膀胱前腔を開放し,良好な視野を得るかが本手術を的確に行う最も重要なポイントであると思われる。木原は専用の鉤を開発し,助手がこれを用い創の展開を行うとしている1)。しかし狭い創から鉤を入れ約3時間に及ぶ手術中,常に一定の力で手術野を十分に展開することは助手にとってかなりの負担になると思われる。また助手一人が鉤引きのみに専念しなければならないことは,比較的少人数で手術をせざるを得ない市中病院においては本手術導入の障害にもなりうるともいえる。われわれはこの点を改善するため種々のリトラクターを用いて本手術を行ってみた。ProtractorTM,Applied wound retractorTMはともに小切開創にはめ込むリング状のリトラクターで数種のサイズのものが市販されている。これらのリトラクターは小切開創を円型に広げる作用を持つが,実際に使ってみるとこのようなポリウレタン製の製品では張力が不十分のようで本手術のような創にはめると楕円形になってしまい,思ったほどの効果が得られない。また手術中に時間とともに段々変形が生じる傾向もあり本手術のような比較的長時間の手術には不十分のようである。一方本来はhand assist手術に用いるLAPDISCTMはラバー製で本手術の創展開に十分な張力を有している。また創内に挿入するインナーリングが比較的大きいこともあり,本手術における視野の確保にちょうどよいと思われた。また単に創を円型に開大するのみではなく,インナーリングが腹膜に外向きに適度な緊張を与えるため手術操作に必要な空間が自動的に得られるという利点がある。われわれは主として,このLAPDISCTMからアイリス部を外して本手術に用い,良好な結果を得ている(図)。またこのようなリトラクターを用いることは創縁の保護,腫瘍摘出時の腫瘍と創の接触の防止の効果もあると思われる。小切開手術をこれから始められる,あるいは小切開手術施行時の創展開に悩んでいる諸兄においては是非試してみることをお勧めする。
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