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「先生は昭和だねえ」.ある日の外来で,研究に協力していただいている原因不明の遺伝性疾患の患者さんに解析の進行状況について説明していたら,そう言われてしまった.「ひたすら働いてばっかりですね」と.「いや,そんなことないですよ」と答えつつ,働いていない状況の例をうまく挙げられない.でも,もしも「そんなに働いてばっかりで楽しいですか?」と問われたら,答えは1つ,「楽しいですよ」となる.正確には,「しんどいときも楽しいときもあるけど,楽しいときがあるからやめられんのです」という答えになるだろう.でも,本当の理由はおそらくもう1つある.これは「恩返し」なのだ.
私は学部の2年生のときに留年した.週に1コマ,半年間だけ授業がある以外,完全フリーの1年間が突然転がり込んできたのである.私は大阪大学医学部の第2薬理学講座(故・和田博教授)に入り浸り,実験・研究の見習いを始めた.大阪南港の屠殺場に出かけてウシの目玉をもらって戻り,網膜を剝がして薬理実験をしたり,ラットの肝臓から酵素を精製してその活性を測定したり,ラットの脳からグリア細胞の初代培養をしたり,RIを使ってcAMPを測定したり….さまざまな実験手法を教えていただき,最終的に論文にまでしていただいた1).結構研究費も使ったと思われるが,そんなことは学生は気にしなくて良いという空気があった.何をやっているかを和田先生に説明していると,「なに言うとるかわからへん.絵に描いて説明せい!」とよく言われた.今から振り返れば知らず知らずのうちに,模式図などを用いてわかりやすく説明する習慣が身に付いたように感じる.まだパワポのない時代,ホワイトボードに図を描いて説明することは,プレゼンのとても良い訓練になっていた.
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