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1. 油症とは
「先生のご専門は何科ですか.」私が九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センターに勤務していることを伝えると,よく聞かれる質問の1つです.確かに,何をしている施設なのか,なかなかわかりづらいかと思います.そこでまず,油症についてご説明していきたいと思います.油症とは,1968年に起きたカネミ油症事件のことを指します.当時,西日本一帯,特に福岡県,長崎県を中心に,全身に痤瘡様発疹と色素沈着を生じる患者が集団発生しました.この発疹は,九州大学医学部附属病院皮膚科で塩素痤瘡と診断され,何らかの有害物質の摂取の可能性が考えられました.皮膚科の要請で油症研究班が組織され,疫学・化学分析調査によって,この発疹を生じた患者はカネミ食用米ぬか油を摂取していること,そしてこのカネミ食用米ぬか油にPCBs(有害化学物質polychlorinated biphenyl;ポリ塩化ビフェニール)が混入していることがわかりました.その後,製油工場の調査で,食用米ぬか油の製造工程でPCBsが混入したことが明らかとなりました.つまり,カネミ油症の原因解明の発端は皮膚科の診断から始まったということになります.研究を進めるにしたがって,混入したPCBsがダイオキシン類に変化していることが判明しました.これにより,カネミ油症はPCBsの経口摂取による食中毒事件であると同時に,ダイオキシン類による中毒症であることがわかりました.この事実は,ダイオキシン類をはじめとした環境汚染物質の人体に与える影響が世界的な懸念材料となってきた背景もあり,カネミ油症の研究が大きく関心を持たれるきっかけになりました.そして,2004年に厚生労働省の食品の安全確保推進研究事業として,現在の油症ダイオキシン研究診療センターが設立されました.
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