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図65毛鞘嚢腫.明調細胞(S)と不全角化細胞(PN)の境界部を更に拡大を大きくしてみると,前者は一般に明るく,一本一本のトノフィラメント(t)が明瞭にみえるに反し,後者では細胞質は暗調でトノフィラメントも束となり(T),一本一本の線維ではなくなっている.核(N)は辛うじて認識できる程度に残り,その中にリボ核酸(RNP)顆粒と考えられる粒子や,一見ケラトヒアリン顆粒と同様の物質(kn)を含む.後者は細胞質内のケラトヒアリン顆粒(k)と全く区別できず,核膜(矢尻)がやがて消失して核の内容が細胞質と混合する場合,両者は同一のケラトヒアリン顆粒と呼ばれるであろう.ケラトヒアリン顆粒の一部が核に由来するとの考えは,毛を含めて8)他の角化上皮でもいわれている.正常表皮の角化では以上の角化機転が急速に進行するため,顆粒層の一層上では既に核がなく,細胞質の一様に暗調な細胞が出現する.従って,トノフィラメントの凝集,核の壊死などをスローモーションで観察することはできない.これに反し,毛,外毛根鞘峡部,エクリン汗腺表皮内導管部(acrosyringium),乾癬などでは角化細胞の代謝が急速なために,十分に角化成熟しない細胞が下からの突き上げによって上層へ押し上げられ,従って角化機転のパノラマを見ることができる.このような不全角化細胞はトノフィラメントの凝集,側鎖による連結などによる細胞の強化が十分でなく,周辺帯(ma—rginal band)による細胞膜の補強も不十分なため,角質層を形成して重積することなく,すぐに落屑する.これは乾癬などでみられる多量の鱗屑をみれば理解できよう.外毛根鞘峡部における角化も,本図と同様な不全角化を示す細胞を多数産生するが,それらはやがて毛管内へ脱落して消失する.毛鞘嚢腫においては,その内容が既に壁を圧迫する程充満しているので,これらの不全角化細胞は重積して壁に付着し,その角化と崩壊の経過を観察できる.本図では更に多数の空胞とリゾゾーム様の小器官(*)がこれらの不全角化細胞に見られる.前者は糖原の抜けたあと,脂質などである.後者にはセメントゾームの放出されずに残留したものも含まれているであろう.×15,000
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