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図61頭部で完全に真皮内に埋没した毛鞘嚢腫を弱拡大でみると,壁は内容に圧迫されて薄く,大量の無構造物質が腫瘍の内容の大部分を占めている(A).壁に沿った周辺部では好酸(エオジン)性が強く赤く染り,中央部では好塩基性が強くなり青灰色に染っている(A).同一の標本を偏光下で観察すると,好酸性の部分にのみ光輝性の複屈折が現われ,好塩基性の中心部には複屈折が現われない(B).壁の比較的厚い部分(C)を偏光下で観察すると,壁細胞の中にも光輝性を示す線維が検出できる(D).これらの所見より,壁細胞で線維成分が産生され,これらが嚢腔へ脱落する際に,形成された線維も一緒に嚢腔内へ移行し,しばらくはそのまま線維として存在するが,次第に中央部へ移動するにつれて崩壊し,線維としての形態を保持しなくなると考えられる.複屈折を発生するためには,その物質が整然と排列する分子構造,例えば線維束,結晶などである必要がある(図8参照).
壁細胞を中拡大で観察すると,PAS染色で赤く染った基底膜(H)の上に並ぶ小型で好塩基性の基底細胞が壁の最外層をなす(C, E, F).基底細胞は3,4層の所もあるが(F),大抵は1層で,中心部へ向って成長するにつれて次第に明調で大型の細胞に変化する(C, E, F, J).これは細胞内に糖原の蓄積が起こるためで,PAS染色により証明することができる(H, I).PAS染色はいろいろな物質を染めるが,基底膜の場合は中性ムコ多糖類を染めているので,従ってジアスターゼ消化を行った切片でも陽性である.糖原はこの処理により消失する.大型明調細胞は所により乳頭状に嚢腔へ突出する(E, I).大部分の明調細胞はそれ以上,何の変化も起こさずに角化し,好エオジン性の嚢腔の内容物となるが,電顕的には少数のケラトヒアリン顆粒を作っている(図64, 65参照).実際,角化する直前の細胞,即ち最内層に位置する明調細胞の中に,小さい塩基性顆粒を認めることがある(F).更に明調細胞全体が好塩基性に薄く染まる場合があり(E),これらは極めて微小なケラトヒアリン顆粒が星屑のように細胞質中に拡散しているためである.明調細胞の中には糖原を使い果してPAS陰性のものもみられる(I).角化が急速に起こった場合には核の消化消失がおくれ,その残存物が嚢腔内に見出される場合もある(J).これは表皮の不全角化(parakeratosis)に相当する.嚢腔の中心部にかけて,即ち古い細胞の崩壊物中には石灰沈着がしばしば観察され(C, G),その中に偏光で複屈折を示す結晶成分も検出される(G).嚢腔を満す物質は一見無構造にみえるが,PAS染色により角化した細胞の間を満す糖蛋白が赤く染まり,細胞の輪郭を規定するので(H, I),少くとも壁に近い周辺部では細胞形態を保持していることが想像できる(図66参照).
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