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病理組織標本の作製そのものは,特殊なもの以外は,通常,技術者にまかしているのが現状である.それらの技術者はただ機械的に標本を作ることが多く,それ故ときとして切片が皮表に斜あるいは水平に切り出されたり,小皮疹では病変部が切り出されなかつたりするために,診断がつかないことがあるのは,日常多くの人が経験していることと思う。顔面とくに鼻部,口腔粘膜などでは,どうしても皮片は小さくなるし,皮片が小さければオリエンテーションがつきにくく,皮表と垂直の標本を作ることは困難となるのは当然である.かつて私共の教室では,試験切除した医師自らが組織標本を作製するのが習わしであつたという.これは以上のような不適当な標本を作らないためにも,その当時としては一つのやり方であつたであろうが,多忙な現在では不可能であり無意味に近い.
そこで切除切片のオリエンテーションについては,人それぞれ工夫をしている.最も普通に行なわれているのは,第一に切除皮片を直ちに乾いた濾紙に,切除基底面を下にして貼りつけ,鋏で余分な部分を切りとつて固定液に入れることである.固定間に,組織は収縮し,皮膚の材料はしばしば変形しやすく,丸まつたまま伸びなくなるので,ことに小さな材料や手掌,足底のような角質の厚い材料では,この注意を行なわないと立派な標本を作ることがむつかしくなる.小さな材料では濾紙面に垂直に包埋すれば,皮面に垂直な標本が得られることになるが,通常の材料ではホルマリン液固定12時間位してから,安全カミソリの刃で皮面に垂直に2等分し,その割面から切片を作製できるように包埋する.病変が腫瘍のときには,病変の広がりや浸潤を見るために,もちろん切除境界線まで含めた割を入れなければならない(図参照).
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